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昨日穴吹クリニックで「両腕が挙がらない」という男性患者(40代)さんの施術をしました。
可動域は、両肩関節とも屈曲60°までといったところ(動作としては、肘と首を曲げればどうにか頭が洗えるくらい)。
右にはおそらく長胸神経の麻痺があるのでしょう、服の上からでも分かる明らかな翼状肩甲が見られます。
小学生の時に事故の既往があり、それがその際の損傷なのかそれ以前からなのかは不明ですが、ご本人曰く、「物心ついた時から、腕をまっすぐ上まで挙げられたという記憶はない」とのことでした。
ただしその他の上肢に麻痺はみられませんし、握力など筋力低下もありません。
カルテには「生まれつき」と書いてあったので分娩麻痺かな?とも思ったのですが、どうもそうではなさそうです。
その動きをみるとさぞかし不自由だろうと思うのですが、普通にお仕事もされていますし、私が思うほどに意識はされていないようでした。
ご本人にしてみれば、別に不自由ではないがちょっと不便、そんな程度の認識なのだと思います。
そしてその肩は、左右とも若干の硬縮はありますが、強直はなく他動的には160°程度までは挙がります。
しかし、途中でのキープは出来ません。
なかなかに厄介な病態を呈しています。
整形外科その他、これまでどこへ行ってもさじを投げられてしまっていたのだそうです。
右に関しては前鋸筋の影響が強いと分かるのですが、左にそれはありませんから、他にも問題はありそうです。
まぁその原因の考察はおいておいて、こうしたイレギュラーな病態からは、多くを学べます。
ご本人が「腕を挙げるときには、こうすると少し上まで行く」と実演してくださったのですが、それらは実際に屈曲角度が向上するわけではなく、補正で指先が少し上まで挙がるということです。
その動作には長年の経験と工夫の跡が見えます(そしてそれが身体に蓄積されています)。
こうした補正動作には、運動連鎖のヒントがたくさん詰まっています。
脊柱を伸展させたり側屈させたり、反対の上肢帯をうまく使ったりと、これに荷重の偏倚なども合わせてみると、とても重要な運動連鎖の観察に繋がります。
つまり、こうした補正は正常人でも少なからず取り入れており、上肢帯に異常のある方にとってその補正がないと腕を使いにくくなるのと同じように、健常であっても動作に負担が生じてしまう可能性が高まると考えることが出来るのです。
これは肩に限らずすべての異常からくる補正に言えることです。
異常には、正常への気付きが多く含まれているものです。
だから、難しい患者さんこそ学びが多いのです。
ちなみにですが、上肢の挙上不全以外の主訴であったどこへ行っても楽にならない長年の肩こり首こりはその場ですっきり改善し、前鋸筋に麻痺の無い左上肢にはなぜか仙腸関節が有効で、20°ほどですがROMが上がりました。
しかし肩こり首こりの要因はこの肩の問題に大きく関係していますから、また戻るでしょうと説明しておきましたが、それでもご本人は喜んでおられたので、よかったということにしておきます。
左はもう少し行けそうだな。
右もほんの少し可動域が上がるだけでも多少は便利だよな、と、そんなことを考えつつ、思考をめぐらせながら行う施術は面白い。
そしてこういう難しい患者さんは、燃えますね^^。
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