先日YouTubeに『【閲覧注意】仙腸関節の真実』という徒手療法家が解剖実習の体験談を語る動画があったので、注意しながら観てみました(笑)。
まぁ要するに、実際に解剖したら仙腸関節は動かなかった、というありがちな話なのですが、私も20数年前にそれは実感済みで、仙腸関節の固い結合をこの目で確認しています。
それはそれで事実と認めますし、その他「仙腸関節は動かない」とする説が少なからず支持されているということもすべて踏まえた上で、それでも私は「仙腸関節は動く」という主張を曲げる気はありません。
今回はその動画の内容に対して、穏やかに反論してみようと思います。
こういった意見はむしろ本流ですから、前々からこのブログでも反論を書いておきたいと思っていたところにタイミング良くこの動画が目についてしまっただけのことで、別に彼らを攻撃するつもりではありませんので誤解なきよう(笑)。
一応フェアな議論ということで(笑)。
では早速、動画の流れに沿って反論していきます。
まず「力ずくで動かそうとしても動かなかった」という点に関してですが、彼らはどのようなイメージで、事前にどの程度仙腸関節が動くものと想定しながら、解剖に臨んだのかが一切不明です。
他の関節のようにクネクネと自由に動くことを想定していたのでしょうか?
彼らが「確認した」という動きについては、どの骨のどの部位に対してどの方向に負荷をかけたのか、そしてその時どこをどのように固定していたのか、さらにその動きはどこを軸として、それぞれがどの方向に動くと仮定したのか、といった重要な情報が一つも示されていません。
だから正確な批判も出来ないのですが、仮にそれがあったとして、その時に確認できるのは、「その条件に沿った可動性はなかった」という一点のみです。
例えば上下にしか開閉しない窓があって、その窓を左右または前後に開けようとしても、それは二人掛かりだろうが五人掛かりだろうが、開きません。
しかしそれをもって、「その窓は開かずの窓」とはならないのです。
私自身は既存の理論には否定的ですから、これまでの理論に沿った動きがなかったとしても、そりゃそうだろう、と思うだけです。
仙腸関節が大きな可動性を有する関節だなんて思っても感じてもいませんし、実際の矯正の際にも、持続的な圧を掛け続けて最後にようやくジワッと動く程度の動きしか感じられません。
私なら普段感じているその動きを具体的に確認するための戦略を練った上で実習に臨み、それが認められなかった場合には、「その動きはなかった」という結論(落胆)に至る、という流れになるわけです。
彼らにはそれがあったのでしょうか?
次に「大の男三人で思いきり引き剥がそうとしても剥がせなかった」「メスでガチガチに切り込んでバキバキと剥がす」といった点に関して反論してみます。
私に言わせれば、これは当たり前のことです。
仙腸関節はわずか15㎠弱の小さな関節面が常に上体の荷重を垂直面で支持しており、時には体重の数倍に及ぶ負荷にさらされることも予想される部位です。
そのような条件下でヒトは、自分よりも体格の勝る相手を背負って歩くことさえできます。
その際には、自分の上体の荷重+相手の全体重が、一足ごとに片側の仙腸関節に掛かってくるということです。
そうした性格上、基本的に優先されるのは、可動性よりも支持性です。
「仙腸関節は荷重によってコントロールされ、荷重をコントロールしている」と私は考えています。
そんな関節がグニャグニャと自在に動いたり、たかだか腕の力程度で引き離されてしまうようでは、どうやって安定性を保つのかと、逆に不安になります。
したがって、簡単に剥がれるわけがないのです。
その負荷を支持しているのは筋肉ではなく、関節面と靭帯です。
ここでの事実として注目したいのは「大の男三人で思いきり引き剥がそうとしても剥がれなかった」けど「メスでガチガチに切り込んでバキバキと剥がす」ことは出来た、という部分です。
つまりここで分かるのは、仙骨と腸骨は「高齢でも癒合していない」という事実です。
メスで骨は切れません(よね?)。
もし最後に力ずくで骨をボキッと折った(割った)のだとしても、それがいつも都合よく関節面(元?)で折れてくれるというのもおかしな話です。
仙腸関節は周囲を強靭な靭帯組織で幾重にも覆われ、関節が支持されています。
靭帯とは、動きを抑制する役割を担う組織です。
動きのないところに靭帯は必要ありません。
つまり靭帯がある(抑制する必要がある)ということが、そのまま動くことを示しているのです。
「関節面も滑らかじゃなかった」「形状がW状」「山と谷」「滑る感じではない」。
この点に関しては、実際に観ていないので、この説明からは何も判断できません。
いづれにしても、こうした事実によって自説が揺らぐことはありません。
最後に気になったのは、彼らが「もともと仙腸関節の動きに関する具体的なイメージをもっていない」ように見受けられた点です。
聞かれている方はちょっとグダグダな感じでしたし、聞いている方も仙腸関節には否定的な印象を持っているように見えました。
ここが最も大事な点です。
具体的に現場でなにを確認するのか、それが明確ではなかったのではないか、と感じます。
しかし、これが一般的な施術者の仙腸関節に対する認識であるということを、如実に物語っている場面でもありました。
関節の可動性を調べるためには「その関節がどう動くのか?」を知らなければ始められません。
しかし仙腸関節は、それが分かっていません。
それを踏まえて生意気なことを言わせていただけば、これまでの仙腸関節にまつわる実験は、実際にその動きを計測した山元功先生とPanjabiの共同研究も含め、すべては「失敗だった」と私は思っています(そのあたりの詳しい解説は仙腸関節塾で行っています)。
同様に、今回の彼らの検証はある限定された範囲における事実確認であって、仙腸関節の可動性を全否定できるものではありません。
それ以前に、件の動画によって、私には何が否定されたのか、具体的な部分は何も見えませんでした。
せめて「この説が明確に否定された」という確認にでもなればまだよかったのに、と思うくらいのことです。
と、いつも通り私は、この程度の批判にはビクともしないほどのヒネクレモノなのです(笑)。
以前、このブログでからくり箱を紹介したことがあります。
その開け方が分からないと諦めてしまえば、その箱はただの飾りでしかありません。
仙腸関節は、科学的にはまだ誰も中を見たことがない複雑なからくり箱です。
私にはそれが「宝箱」に見えるので、開けることを簡単には諦められないのです(笑)。
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