さあこの学術大会後記も、もう一息。がんばろう。
学術大会も終盤に差し掛かり、パネルディスカッションの後は昼食をはさみ、午後からは特別講演です。
今回の特別講演は、東京大学大学院教育学研究科身体教育学講座教授、山本義春先生による講演、「生体のゆらぎとその役割」。
この講演は、私が単独で決めてしまったこの学術大会唯一のプログラムです。どうしてもゆらぎに関する話が聞きたかったのです。
ゆらぎに関する研究者を調べていて、人の身体に関するゆらぎの研究者というのは意外と少ないことが分かり(工学系は多いんですが)、その中で、第一人者と呼べるのがこの山本先生でした。
たまたま東大の職員に知り合いがおり、少し話を聞いたところトントン拍子で決まってしまったという幸運もあったのです(その知り合いの指導教官が山本先生だった)。
まぁ実際にはトントン拍子でないところもあって、依頼した当初は山本先生から「(内容的に)少し距離があるのでは」と懸念もされたのですが、そこをなんとかと、無理を通した部分も多少はあったりするのです。とはいっても、私自身はこの講演、絶対に面白いと確信していました。
山本先生は講演前、しーんと静まり返るような「静聴」を心配されていたようですが、さにあらず、質問も活発で、講演後にはカイロとの関係性の深さを実感していただけたようです。
ゆらぎに関する研究とは、とても幅広い領域にわたるものです。なぜなら、すべての物質はゆらぎを持っているから。
自然現象もゆらぎで構成されています(風や炎、水の流れ、波など)し、構造物もゆらいでいます。どこにでも、なんにでもゆらぎはあるのです。もちろん人の身体にもゆらぎはあり、心拍や重心も計測すると常にゆらいでいます。
さて、今回の講演のキーワードは「確率共振」。
例えば心拍数など、一拍ごとの感覚や強さにはばらつきがあり、それがゆらぎとして観察されます。このゆらぎは健康な人ほど強い傾向があり、そこには自律神経の関与があるようです。移植される心臓は自律神経線維が切断されているため、このゆらぎが小さく、それが問題となるようです。
そして通常神経系には「閾値」というものがあり、刺激が閾値を超えたときに神経は興奮し活動するわけです。その閾値以下(ギリギリ閾値を超えない程度)の刺激を加えても神経は興奮しません。この時その刺激の波形は正弦波(規則正しい波形)とします。次に、その刺激にノイズを加えます。このノイズにより波形にゆらぎが生じ、この刺激は閾値を超えたり越えなかったりするバラバラの刺激として入力されます。
このノイズに強弱を付けます。すると、閾値に満たない小さなノイズではもちろん反応は低下しますが、閾値を超えるような波が生じる大きなノイズでも、同様に反応は低下するのです。
反応を活性化させるノイズには、最適な強さ(周波数帯)があるようです。
このようにお互い共鳴しあい活動が高まる現象を「確率共振」と呼ぶそうです。
その例として、ザリガニの神経系では水中の水分子がわずかに動く程度のノイズで確率共振が見られたり、ヘラチョウザメにも同様の現象が見られるそうですが、これらは水中で敵の気配を感じ取ったり、餌となるプランクトンの動きを察知するときに有効に機能しているのだそうです。
その後、人体における確率共振の実例として、心拍のほか、血圧調節系、平衡覚や視覚などについての実験結果をもとにしたご説明をいただきました。
私たちの周りには刺激があふれていますよね。全く刺激のない環境など日常生活では不可能です。つまり日常生活はノイズであふれているわけです。
当然神経系は、ノイズを前提として機能が構築されているに違いありません。これって面白くないですか?
ノイズが神経活動を向上させたり低下させたりする。サブラクセーションってもしかして・・・?
私の頭脳に瞬発力はないんです。エンジンで言えば高回転のターボではなく、よく言えばトルクフルなディーゼルと言ったところ。瞬発力はないけれど、持続的に粘り強く回転します。なので今回も、講演中は良い質問も思い浮かばず、座長としては落第点でしたが、まわり続ける頭は後になっていろいろと思いつく(笑)。今になって質問の数々が頭の中に渦巻いています。
今回の講演、大変示唆に富む貴重な体験でした。
ゆらぎ、やっぱり面白い!
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