運動前のストレッチが怪我の予防、疲労の回復、パフォーマンスの向上に対する効果がないばかりではなく、場合によっては競技直前のストレッチが筋力や瞬発力の低下をもたらしパフォーマンスを低下させるという研究報告が多数あります。
ここでいうストレッチとはStatic stretching(静的ストレッチsst)のことですが、このsst後、筋力は最大30%の低下が45分間持続するという報告もあります(Nelsonら 2001)。
競技の現場ではすでに常識となっているかと思いきや、案外そうではないようです。
そもそもぼくはストレッチなど専門外なのでそれが効果的であろうがなかろうがどっちでもいいのですが、こうした情報は我々のような領域の専門家であれば、情報収集の過程で否応なく目にしてしまうものです。にもかかわらず、一般の認知度は低い(まぁ一般の方は普段論文なんて読まないからね。・・・おれもか ^^;)。
うちの患者さんも「普段からストレッチをしっかりやらないから傷めるんですよね」とおっしゃる方が多いのですが、「ストレッチってどういった効果があるのか実はよく分からないんですよね」と返すと皆さん驚かれます。
2000年前後からストレッチに関する否定的な研究報告が提出されるようになり、その後合理的な反論もないまま、現在アカデミックな場ではそれが定説になっているようです。
その内容(研究の手法など)には現場感覚との間に若干のズレもあるようで、やや結果が独り歩きしている感もありそうですが、少なくともsstがパフォーマンスを向上させるという根拠はなさそうですので、あえて積極的に取り入れさせる理由は見当たりません。
pubmedで最近の研究を検索してみたところ、面白い論文がありました。
Clin Biomech (Bristol, Avon). 2014 May 10. pii: S0268-0033(14)00098-9. doi: 10.1016/j.clinbiomech.2014.04.013. [Epub ahead of print] Increased range of motion after static stretching is not due to changes in muscle and tendon structures.
これは「スタティックストレッチ後の可動域の増加は筋肉や腱の構造的変化によるものではない」というタイトルそのままの研究報告です。
腓腹筋とアキレス腱のストレッチを6週間継続しその影響(筋束長、羽状角など)を見る、というものですが、ストレッチ後にも筋腱ユニットに構造的な変化はなく、可動域の増大に関する解釈は侵害受容性神経終末の適応によるものではないか、と結ばれています。つまり、ストレッチで筋肉が伸びて柔らかくなっているわけではないということです。ということは、肩こりなどで行うストレッチも効果はない?
その他にも探してみるといろいろと出てきますが、運動前ではなく運動後の疲労の回復について次のようなものも。
結語で「運動後はなにもしない方が良い可能性が示唆された」とまとめられています(なんかシュール)。
スタティック・ストレッチが柔軟性の向上以外否定される傾向にある一方で、バリスティック・ストレッチングやダイナミック・ストレッチングの方は効果も認められ、ウォーミングアップ・プログラムなどで広く取り入れられているようです。
今回調べてみて感じたのは、ストレッチに関する研究論文自体の多さと、そこに関わる真摯な研究者の多さ、そしてネガティブな研究報告が多い中でもそれを丸呑みすることなく、冷静に結果を検証しようと努めている研究者が大勢いる、ということです。
そうした研究者を見ていて思うのは、その姿勢は立派なものですが、そこまでストレッチにこだわる理由はなんだろう?ということ。
ストレッチに、というよりも、「ストレッチという言葉と概念」に囚われ過ぎているのでは?などと感じてしまいます。ようするに、スタティックはともかく、バリスティックもダイナミックももうストレッチじゃなくてもいいのでは?とつい言いたくなってしまうのです(引き伸ばす、という感じではないよね)。そこまでストレッチという言葉に固執する理由がぼくには分かりません。
もっともそれを言ったらカイロも似たようなところがあるんですけど・・・。
否定的な論文を探したらいくらでも見つけられる、という点でもね。
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