臨床整形外科「仙腸関節を科学する」を読んで思ったこと

仙腸関節塾 第19期 令和7年11月16日17日開催決定

参加者募集中です。

私が仙腸関節について調べていてもっとも懸念したのは、「この先仙腸関節の全容が解明されたとき、カイロはこれまでの主張を貫き通すことができるんだろうか?」というものでした。

それくらい危うい理論に見えたからです。

気付けばそれから四半世紀、残念ながら今も状況に変わりはありません。

不確かな前提の上に展開された論理は、その前提が覆された瞬間に全否定されてしまう運命です。

仮説と否定は常に隣りあわせ。

明日には全否定されてしまうかもしれないのに、この業界危機感なさすぎ、と思いつづけて早25年。

私は仙腸関節の全容解明を期待しながら、同時に怯えてもいるわけです(笑)。

それは吉岡理論崩壊の瞬間かもしれないんだから。

臨床整形外科 第60巻 第6号」(医学書院 2025年6月25日発行)の特集は「仙腸関節を科学する」。

たまたま目にしたのですが、こんなの迷わず購入しますよね。

こうした特集が整形外科の雑誌で組まれるということは、少しは注目されているのかもね(願望)。

 

本誌では「解剖学」「コンピューターシミュレーション」「アンドロイドモデル」など、最新の知見、手法で仙腸関節の解明を試みています。

しかし裏を返せばそれは、仙腸関節の謎解きは現在進行形で継続中、ということ。

内心ホッとした反面、やはりその内容を拝見していると、残念だな、という方が大きい。

アカデミアの外側のさらに外側の、ただのオタクの分際で生意気にも意見など言わせていただくことをご容赦いただけるなら、その仮説の前提ごと、そろそろ見直さないといつまでたっても解明などできないよ、と思う。

今回の情報だけでも有力なヒント、たくさんありましたよ。

 

気になったところでは「有限要素解析で明かす仙腸関節のバイオメカニクス」(豊原涼太・大橋俊朗 著)の中の、以下の部分。

―引用―

仙棘靭帯と仙結節靭帯を削除して解析を行うと仙腸関節の後屈運動は変化がなかった一方、前屈運動が増大していた。これらの靭帯の働きが前屈運動の制限であることは既に解剖書やcadaver実験で示されているが、有限要素解析で可視化された結果をみると、後屈運動には作用せず、前屈運動にのみ作用していることがよくわかる。

仙腸関節部の材料特性を軟骨から骨に変更することで、関節としての運動性をなくしたモデルで解析を行った。その結果、仙腸関節部の相当応力(負荷)が劇的に増加し。靭帯の負荷荷重が減少した。

―引用ここまで―

私は「靭帯の走行を見れば関節の動きは予測可能」と考えており、実際にそれは私の仮説を補強してくれています。

特に仙棘靭帯と仙結節靭帯は「仙骨と坐骨が遠ざかる動き(寛骨の内旋外転)」を抑制していることは明らか。

説明するまでもなく靭帯は「動きを抑制するための組織」であって、「運動性をなくしたモデルで~靭帯の負荷荷重が減少した」という結果はまさに、それを裏付けるものです。

動かないのなら、靭帯などいらないのです。

「仙腸関節は周囲を靭帯で強固に固定されているから自由に動けない」と骨盤矯正を否定する人がいますが、靭帯があるということはそのまま「動くことの強い証拠」でもあるのです。

 

そして私は、今回の報告と同様、靭帯は「受動的な運動である仙骨のうなずき(本文中の前屈運動)を主に抑制する」もので、「能動的な運動である起き上がり(後屈運動)は抑制されない」と考えています。

なぜなら靭帯による運動の抑制はエネルギーロス(靭帯による力の吸収)と考えるからであって、起き上がり運動は緩衝ではなく「力の伝達」が主な目的なので、力の吸収や分散(柔軟性の増加)は少ない方がいいのです。

このあたり、仙腸関節だけ見ていてはダメで、腰椎との関係性まで考慮しないと本質はつかめないと思う(生意気にすみません)。

うなずき運動と起き上がり運動は、その役割が明確に異なるのです(ほんとスイマセン)。

 

次に「アンドロイドモデルを用いて解明される仙腸関節の機能」(佐中孝二 著)から。

このアンドロイドモデルとは「骨標本から関節面の形状を理解し、リハビリテーションなどの徒手療法で行われる関節アプローチからの知見を活用しながら、関節面での滑りや転がりを再現した」もの。

―引用―

全身型アンドロイドモデルの知見によると、両脚支持期には左右下肢の支持脚の切り替えが必要で、それには慣性力のうち側屈方向の力が利用される。

単脚支持期には対側下肢の振り出しが必要であり、慣性力のうち回旋方向の力が利用される。

この観点で先の1歩行周期中のLED発光を見ると、両側支持期の尾側部接触で側屈方向の力を、単側支持期の頭側部接触で回旋方向の力を伝達していると考えられた。

仙腸関節はその関節面の接触部を変えることで歩行周期中に必要な慣性の方向を振り分けていることになる。

 

図6bは左坐骨を背側に動かした状態である。仙骨の左尾側と右頭側が接触し、左頭側と右尾側が離れていた。

図6cは右坐骨を背側に動かした状態である。仙骨の右尾側と左頭側が接触し、左尾側と右頭側が離れていた。

図中参考図でもわかるように、先の歩行原理モデルでの慣性力接触伝達と慣性力発生の遊びしろと動きが一致していることがわかった。

―引用ここまで―

あくまでも骨模型を用いたアンドロイドモデルでの解析ですが、「支持脚の切り替え~には慣性力のうち側屈方向の力が利用され」「対側下肢の振り出し~回旋方向の力が利用される」とあります。

これは私の仮説の根幹である「仙腸関節の運動には前後軸上の回転(側屈)および垂直軸上の回転(回旋)の組み合わせ」という意味そのものではないでしょうか?

 

また後段(図6bは~)の部分は、「アンドロイドモデルでの歩行実験中に、左右の仙腸関節面では耳状面の頭部と尾部で交互に接触と非接触を繰り返していた」ということ。

そしてそこから前段の慣性力に関わる回転方向が推測されています。

つまり歩行中、仙腸関節の耳状面内では接点の移動が交互に繰り返され、そしてその対角では関節面の離開が交互に繰り返されている、ということが示されているわけです。

では、それが関節面内で実際に起こるとするなら、どのような運動軸を想定するのが現実的でしょうか?

これまで仮定されてきたような左右軸上の回転運動や、耳状面に沿った前後上下への並進運動では、ここで示されたような接点の移動は起こりえません。

弓状線以外に、それらを可能とさせる運動軸は見当たらないのです。

同じ寛骨上の可動部位である恥骨結合や股関節の存在を考慮すれば、なおさら。

 

骨模型を用いたアンドロイドモデルやコンピューター上のシミュレーションが実態をどこまで反映しているのか、またそれらがエビデンスの質としてどの程度のレベルなのか私には分かりませんが、この結果を素直に受け入れれば、もうほとんど答えは出ているように私には見えるんです。

素直な解釈に至らないのは、盲目的に前提とされている仮説に囚われているからだと私には思えてなりません。

 

既存の骨盤矯正を否定するのも肯定するのも、こうした研究、実験結果の解釈も、私から見たら、その前提を妄信しているという点では同じに見えます。

しかもその前提すら統一されていない。

その前提が間違ってるから、結論が出ないのです(たびたびスミマセン)。

 

でもさすがに、そこに気付くのは時間の問題のようにも感じる。

ここまで分かればいいかげん気が付くんじゃないかな?とも思う。

こっちは四半世紀も前からそうだと思い続けて、それしかないと確信しているわけです。

そして困ったことに、機能的な左右非対称性も含め、疑い続けながらもその仮説を否定できないでいるんです。

それらをすべて否定されることも覚悟のうえで、こうして意見を述べています。

いまのまま解明されなければ、私は今後も持論を好き勝手に主張し続けられるという意味では、謎なままの方が幸せなのかもしれませんけど(笑)。

 

当時の私は仙腸関節の謎をどうにか解き明かしたくて、ひたすら観察を続けました。

そして自分の中で答えが見つかった時、仙腸関節だけを追いかけていたはずなのに、身体全体がより鮮明に見えるようになっていました。→木を見ていたら森が見えた

仙腸関節の謎が明らかになれば、身体の見え方も変わる。

もちろん面白い方に、飛躍的に。

骨盤矯正に対する期待と共に。

 

そのあかつきには、これまでさんざん小馬鹿にしてきた意識高い系医療関係者がクルッと手のひらをひっくり返して、エビデンスを盾に骨盤矯正を全力で奪いに来るかもしれないよ。

それはそれでワクワクしますけど。

だって仙腸関節がもっと科学できれば、もっともっと面白くなるはずだからね。

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